用語集
【あ~お】
アーツ・アンド・クラフツ運動
イギリスの詩人、思想家、デザイナーであるウィリアム・モリスが主導したデザイン運動で、美術工芸運動ともいう。大量生産による安価だが、粗悪な商品があふれていた状況への批判から、中世の手仕事に帰り、生活と芸術を統一することを主張した。
この思想はアール・ヌーヴォーなど各国の美術運動に影響を与えた。
柳宗悦の民芸運動は職人の手仕事から生まれた日用品の中に美的価値を見出そうとするもので違いはあるが、これらの運動の影響も見られるとされる。
アール・デコ
アール・デコ建築は1910年代から30年代にかけてのつかの間の流行であり、インテリアや部分的な表現が多く、アールヌーボーや国際様式、歴史主義様式などとの混成品である。
世界中の各都市の土地柄にあわせて形を変化させた様式でもあるため、これといった論理や主義主張に乏しく、美術史ならいざ知らず建築史の中ではあまり重要視される様式ではなかった。
しかし、近代建築に対するアンチテーゼでもあった1960年代末から70年代初頭のポストモダニズム運動におけるアールデコリバイバルに端を発し、機能的でありながらも装飾美を兼ね備えたこの様式が再び新鮮に受けとめられ、脚光を浴びるようになった。
アール・デコの形態は、稲妻紋様や組み合わせ円弧、独特の波紋、三角形・円・正方形の連続・断絶・反復・重ね合わせによるギザギザの繰り返し等のパターン・流線型・ジグザグ曲線(電波イメージといわれる)、あるいは船内意匠的表現が柱頭やエッジ、ステンドガラスやドアを飾る部分的な装飾芸術である。建築におけるアール・デコは全体の形を選ばず、たとえそれがロマネスクでもゴチックでもかまわない。摩天楼にも木造の商店建築にも応用が利くものである。また同時代の前衛芸術を次々と取り込んでいった点に、アール・デコの特徴と魅力の鍵が潜んでいると言える。(いずれにしてもアール・デコ自体が統一したデザイン像ではない。)
アッサンブラージュ
立体的なものを寄せ集める、積み上げる、貼り付ける、結び付けるなどの方法により制作された芸術作品のことでコラージュの立体版ともいえる。
イギリス積み
煉瓦の積み方の1つで、煉瓦を長手だけの段と小口だけの段とを1段おきに積む方式。
いわゆる看板建築建
築家で建築史家の藤森照信が命名した名称で、定義はないが、特徴的な大正末から昭和初期に駆けて建てられた木造店舗の正面だけを、看板のように西洋建築らしく飾り立てたもの。
入母屋造り
入母屋に造った屋根。また,屋根を入母屋にした建築。入母屋とは、屋根の形式の一で、上部は切妻(きりづま)造りのように二方へ勾配をもち、下方は寄せ棟造りのように四方へ勾配をもつもの。
【か~こ】
蟇股蟇股
蟇股蟇股(かえるまた)とは、社寺仏閣などに見られる山形の部材で、もともとは構造上の支柱であったが、後に装飾化されている。また、見た目が「蛙が股を広げたような形」になることから蛙股と呼ばれており、梁や桁の上に据えられている。キーストンヴォールトまたはアーチの頂上部分にある建築要素で要石、楔石などとも呼ぶ。
木鼻
「木の先端」という意味の「木端(きばな)」が転じて「木鼻」に書き換えられたもの。頭貫などの水平材(横木)が隅柱から突き出した部分に施された繰形や彫刻などの装飾をいう。擬洋風建築明治時代初期から中期にかけて、西洋の建築を日本の職人が見よう見まねで建てたものをいう。一見して洋館風だが、よく見るとプロポーションや細部の造りがぎこちない。組物建築物の柱上にあって、軒を支える部分。
懸魚(げぎょ)
日本建築の寺院や城などの破風の頂点や中途に垂下させた装飾彫刻。
ゲニウス・ロキ
ゲニウス・ロキとは、どの土地(場所)にもそれぞれ特有の霊があり、その霊の力に対する感性を研ぎ澄ましつつ建物を建てたり、地域計画をしたりする必要があるとする考え方のことで、18世紀のイギリスで始まり、世界に広まっていった。現代では、その土地固有の歴史・風土をよく理解し、大切にすることによって建築や都市、さらにはタウンスケープを優れたものにするという考え方へとつながっている。「住宅は住むための機械である」と解いたル・コルビュジエは無駄な装飾を省くモダニズム建築の規範を示したが、晩年には、その主張と相反する造形の「ロンシャンの礼拝堂」を設計している。このゲニウス・ロキという概念が強く働いたのではないかともいわれている。
向拝
向拝(こうはい、ごはい)とは、日本の寺院建築・神社建築において、仏堂や社殿の屋根の中央が前方に張り出した部分のこと。車寄せのような空間である。
虹梁
虹梁(こうりょう)とは、社寺仏閣などに見られる虹のようにやや弓なりに曲がっている梁のこと。「虹」の名は緩やかに湾曲した形状に由来し、彫刻や彩色などの装飾がされることが多い。
コンソール
ギリシャ建築などの渦巻き形の持ち送りのこと。
コンポジット式
円柱古代ローマ建築の列柱様式の一つで、柱頭の装飾にイオニア式の渦巻きとコリント式のアカンサス葉が混在している。
蛇腹
外壁よりも一段外側に突出している装飾帯を蛇腹(コーニス)と呼ぶが、この蛇腹の一種で、軒近くにあるものを軒蛇腹、建物の壁面に帯状に取り付けた突出部分を胴蛇腹という。
【さ~そ】
簓子(ささらこ)下見板張り
下見板張りとは、外壁の貼り方であり、上の板の下端が下の板の上端に少し重なるように貼るものだが、押縁として下見板に合わせたジグザグ状の刻みがある角材を簓子(ささらこ)と呼んでおり、この納め方を簓子下見板張りと言う。
四方柾
柱用などの角材で、4面とも柾目が通っている木材。
書院造り
書院造とは、平安時代の貴族の住宅様式「寝殿造」を元に、中世末期以降に始まり、近世初頭に大いに発展完成した「書院」を主室に持つ武家の住宅様式のことだが、時代ごとの変遷があり、建築様式として定義づけることはむずかしい。
ジャイアントオーダー
複数階にまたがるオーダー(古典主義建築の基本単位となる円柱と梁)のこと。
数寄屋風
書院造の格式や様式を嫌った茶人達が確立した様式だが、書院造りの系統とされ、数寄屋造りとはされないことから、数寄屋風などと呼んでいる。
セセッション
セセッションとはローマの古事「Secession Plebis」からとられたもので、伝統からの解放・分離を意味しており、19世紀から20世紀初頭にかけてダスタフ・クリムト(画家)を中心とし、オーストリアのウイーンに興った芸術の革新運動の1つである。アールヌーボーからアールデコへと変化する橋渡しとなった様式でもあり、アールヌーボーから影響された植物模様とその後アールデコの特徴となる幾何学模様の双方を兼ね備えている。ウイーン分離派とかゼツェッシオンとも言う。なお、日本では、分離派と名乗る、大正9年に東京帝国大建築学科を卒業した堀口捨巳をはじめとした総勢8名が卒業に当たり結成したグループがある。これは歴史主義からの離脱をめざし、ウイーンセセッションにちなんで名付けられたものの、1つの様式にこだわった作品造りを目指していたわけではない。 彼らの作品は文字どおりのセセッションスタイルよりも、表現主義やデ・スティルの影響を色濃く受けていたようだ。
関根要太郎
関根要太郎(1889-1959)は、埼玉県で生まれ、東京高等工業学校(現・東京工業大学)で建築学を学び、ユーゲント・シュティールのエッセンスを取り入れた作風で知られる建築家。代表作品として、旧多摩聖蹟記念館や、亀井喜一郎邸、函館海産商同業組合事務所などがある。
【た~と】
出桁造り(だしげたづくり)
梁または腕木を突き出して、側柱面より外に桁を出した造りのこと。
脱構築主義(デコンストラクション)
脱構築主義とは、固定化された既成の観念の相対化を促す作業であると同時に、それを乗り越えようとする、新たなる地平への可能性の提示である、と言える。さらに、「脱構築という思想そのものもまた、つねに脱構築され、つねに新たな意味を獲得していく」ということになる。建築における脱構築主義は、例えば構造や覆いといった建築の要素に歪みや混乱を起こす非ユークリッド幾何学の応用などが特徴である・・・といっても解りづらい。新小岩にあった布谷ビル(ピーター・アイゼンマン)が一例だが、現存しない。見学の際、写真よりも迫力がないと感じた記憶がある。
デ・ラランデ
ゲオルグ・デ・ラランデ(1872-1914)とはドイツ出身の建築家で、日本で設計事務所を開き、神戸の風見鶏の館をはじめとする作品を残した人物。日本にユーゲント・シュティールと呼ばれる建築様式をもたらしたとされる。通り土間表から裏口まで続く土間のことで通り庭ともいう。
ドイツ下見板張り
ドイツ下見とは、相杓りの片方を大きく削り取って、目地が大きく見えるように仕上げた下見板の張り方をいう。箱目地下見ともいう。
斗栱
斗栱(ときょう)とは、中国の木造建築で柱の上に置かれて軒などの上部構造を支える部材のこと。日本や朝鮮半島にも伝えられ、寺院や宮殿建築に常用された。斗(ます)と肘木(ひじき)からなる。
【な~の】
【は~ほ】
ハーフチィンバー様式
中世のイギリスで始まった住宅建築様式で、柱、梁、斜材など木造骨組をそのまま外部に出し、木造骨組みの間を石やレンガで埋めるもの。やがてフランス、オランダ、ドイツへと伝わった。
博物館網走監獄
博物館網走監獄とは、明治時代から網走刑務所で実際に使用されていた建物を天都山に移築・修復して保存公開している野外博物館で、1983年(昭和58年)7月に開館している。なお、管理運営は公益財団法人網走監獄保存財団で、網走刑務所とは関係がない。
半切妻屋根
切妻屋根の棟の両端の部分を斜めにカットしたデザインで、もともと、ドイツやフランス南部で使われてきた屋根の形なので、ドイツ屋根ともいう。
ピラスター
壁面より浮き出した装飾用の柱。付け柱・柱形。ブラケット(持ち送り)壁や柱から突き出て、屋根や庇を支持するために取り付けた部材。
ペディメント
西洋古典建築において、三角形の切妻破風のことであり、入口や窓の上部に装飾的に用いられることが多い。三角形を基本とするが、円弧形のものもあり、これを櫛形ペディメントと呼ぶ。
ポストモダン
近代建築が否定した伝統的な象徴性を復活させ、古典的な意匠や装飾を纏った建築を生み出したが、これを近代建築の後に来るものとしてポスト・モダンと呼んだ。ポストモダニスト達は歴史的な様式形態を視覚的に使うことにコミットするあまり制約を受け、結果的に建築の表層に歴史的形態を纏わせることで終わってしまったと言われるが、一方では教条主義的で一般社会の価値観と隔絶していた建築をわかりやすく、親しみやすくしたという評価もある。
【ま~も】
木骨石造
木造の骨組みの外側に厚さ15cmの石を積み、カスガイ等の金物でつないで一体化し、外見をあたかも石造のようにみせかけるアメリカじこみの構造である。この工法は日本・香港・アメリカなどでしか見ることができないと言う。小樽の石造倉庫のように群を成して保存されているものは極めて珍しい。
起破風
反った状態の反対で、屋根などがなだらかな凸状になっていることを起屋根というが、その部分に設けられている破風板を起破風(むくりはふ)という。
【や~よ】
【ら~ろ】
【わ】
ワクノウチ造り
「ワクノウチ造り」とは、富山地方に見られる堅牢な架構構造で、釘・金物を一切使わずに組み上げられたものをいう。あたかも部屋を枠で囲んだような様子から、「ワクノウチ」と呼ばれる。 中央にウシバリという太い梁を渡し、この上にハリマモンという縦梁を直交させて架ける。さらに、柱と柱にはヒラモンと呼ばれる鴨居を通し、貫(ヌキ)が何本も横に通された伝統的木組みによって構成される。